あれこれ考えるのは性に合わないので、俺は気を取り直して再び弟とゲームを始めた。

が、何となく気分が乗らず、俺らしからぬミスを連発してしまう。


……さっきの電話。
泣いてたな、ユイ。

今頃になって、だんだん涙の理由が気になってきた。あいつが泣くところなんて、もう何年も見ていないから。


とにかくあいつは泣かない……はず。


小学校や中学校の卒業式でも、涙は見せなかった。

狼みたいなデカイ犬に追いかけられた時も。

ブランコに乗ってて顔から落ちた時も。

大ヒット恋愛映画に世間の女子が「超泣けるー!」と熱狂していた時ですら、ユイはひとり黙々と森鴎外全集を読んでいたような女だ。


わたしはちょっとやそっとじゃ泣かないのよ。そう言って、あいつはいつも毅然としていた。


ユイの涙……。それを想うと、なぜだろう、胸がモヤモヤする。輪郭のはっきりしない違和感に、心が支配されていく。


「……すまん、俺出かけるわ」


俺はゲームのコントローラーを置いて立ち上がった。