―ポタ、ポタ


「…恨んでないよ…っ…恨みきれな…ぃ」

「紫苑…」


私は分かってた。
あのとき、あの場所で、母さんが今にも泣きそうな顔をしてたの。
だって、母さんは私を抱きしめて言ったんだもん。


『新しい世界を歩みなさい』


言われたとき、捨てられたんだって分かった。
だけど、追うつもりなかった。
母さんは違う世界で、違う暮らしをしろって、そう言ったから。
だから、捨てられた実感はなかったよ…。


「…母さんは…心配してたからっ、施設を見てたんだ…!」

「声かけた人が、紫苑の母親…だな」


母さんが施設を訪れた日、私と律は母さんと話したんだ。
ただの会話だったけど。


『元気ね』

『オレより、しおんがげんきー!』

『おねーさん、げんきないよ?何かあったの?』

『…ううん。貴女達に会って、随分元気になったわよ』

『『よかったね!』』

『今度、息子連れて来るわ』

『うん!いっしょにあそぶー』

『オレも!!』


あの人が母さん。
優しい人だった。
笑顔が綺麗で、私達を気遣う様に話してくれた。
母さんがいなくなるとき、“元気でよかった”って私に言ったの。

確実にあの人は母さんだよ。