「読まねーの?」

「あ?…律いんだもん…」

「俺も一緒に読む!」

「……」


病室に戻ったら、病室にまで着いて来た律。
そして、一人静かに手紙を読もうとしたら…一緒に読むとか言い出すバカ律。
私一人で読みたいのに…。
私は少し迷惑そうに、律を見てから、手紙を開いた。
…母さんの字…綺麗…。


「未来の紫苑へ

貴女が手紙を読んでるとき、あたしはもういないでしょう。
未来の紫苑に謝りたいことが、沢山、沢山あるの。
だから、貴女に手紙を書きました。

貴女を産んで、育児に追われる毎日があたしは辛かった。
伸ちゃん(お父さん)も、仕事が忙しかったけど、あたしを助けてくれてた。
だけど、一人のときはホントにしんどかったの。
貴女が泣くと、貴女が我が儘言うと、苛立ちが半端なくて。
何時も苛立ってたの。
貴女が嫌いだった訳じゃないわ。
ただ、大変だったから。

貴女が少しずつ成長してくると、伊織がお腹ん中に出来た。
そのとき、あたし…病気にかかった。
その病気が治んないって、余命言われたときの悲しみと、苛立ちの矛先は、貴女に向いたの。
二人の子供を育ててられないって思って。
だから、あたし…伸ちゃんに黙って貴女を捨てたの。
捨てたとき、貴女は分かってたんじゃない?
自分が捨てられたって。
だから、追って来なかった。
違うかな?

あの後、伸ちゃんにめちゃくちゃ怒られた。
今すぐ連れて帰って来いって。
でも戻れなかった。
戻りたくなかったの。

でも、後々…後悔した。
自分が痛い思いして産んだ子を、自分達が望んで産んだ子を、自分勝手で捨てたことに。

伊織が生まれた後に、施設の前を通ったの。
そしたら、笑顔で駆け回る紫苑がいた。
幸せそうだった。
だから、今更家族だよって言ったって、貴女は嫌がると思ったの。
だから、幼かった伊織に貴女が姉だと、ずっと言い続けたわ。
高校で会って、姉弟として仲良くしてほしかったから。

あたしが死んでも、伸ちゃんに姉のことを話すように言っとく。
あたしの余命、二年なの。
余命二年ってね、あと…四日後なの。
死ぬ前に、貴女に手紙書かなきゃって。

ホントにごめんなさい。
貴女を嫌って、手放した訳じゃない。
だから、あたし達を恨まないで。
それか、あたしだけ恨んで!
あの二人は…関係ないから。


あたしは、貴女が好きだよ。
今も昔も。
紫苑ってね、周りを元気にする力を持ってるの。
だから、あたしは大好き。

あたしを恨むなら、恨んで。
あたしは最低な母親だから。
今までごめんなさい。

未来の貴女が幸せでありますように。
母」