一言だけ言うと、ガチャンッと音をたてて受話器を戻す。
玄関に向かおうとすると、横に桃宮が立っていた。
「桃宮…」
「だれ…、だったの?」
そう聞いてくる彼女の顔は、なんだか寂しそう。
その表情をみたら帰らないでほしい、と思ってしまった。
「幼なじみの…」
「…そっか」
最後まで言う前に、桃宮が言葉を遮った。
さらに表情が曇っていく。
そう、思っていると、くるりと桃宮が背を向けた。
「じゃあ、あたし帰るね」
「…」
「お大事に」
そのまま小走りで玄関に向かい、バタンッという音が、聞こえた。
最後の「お大事に」の声が、震えていた気がする。
追いかけたい―。
でも、なぜだろう。
足が動かない。