「あ、えっと」
「…」
「とっても、大切なものだから。何かお礼したいんですけど…」
まるで、マンガにでてきそうな感じだ。
大事なものを利用して、彼と話そうとするなんてひどいかもしれないけど、彼と話したいと思った。
「ダメ…ですか?」
なんか、逆ナンしてるみたいだなぁ。ちょっと、違う気もするけど…。
「いいけど…」
「え…」
絶対断られると思った。
「あ…『桜ノ学園前、桜ノ学園前』
アナウンスが流れた。降りなきゃいけない。
「えっと…」
「明日このバスな」
それは…
「え」
「降りそこねるぞ」
「え、あ」
あたしは、アタフタしながらバスを降りる。
降りて、バスを見ると彼はこっちを見て笑っていた。
「うそ…」
こんなに都合よくいくものなんだろうか。呆然と突っ立ていると肩をポンッと叩かれた。
「おはよ、雫」
挨拶してくれたのは、紫穂ちゃん。
紫穂ちゃんがあたしを見て、不思議そうな顔をする。
「雫、顔赤いけど。どしたの?」
嬉しくて嬉しくて、顔が真っ赤なのが自分でもわかる。
あたしの恋は今始まった―――。