「ん?なぁに?」

「・・・・・・いえ、以前お会いしたことあった気がして」


そう言うと、そいつは口元を押さえ上品に笑う。


「何年前の手かしら?」

「ですよね。使い古した手を使いたいくらい綺麗だなって思ったんです」


こいつは俺のことなんて覚えてない。

当たり前だ。


「お名前、聞いてもいいですか?」


こんな社交辞令、聞きなれてるのか。

彼女は「上手いわね」と笑って、

俺に名刺を差し出した。


「叶 遥香(カノウ ハルカ)よ」


運命なんて信じてない。


「遥香さん、お名前も可愛らしい」


俺はアンタのことを忘れたことなんてなかったよ。