7年も片想いしてきて、分かったことがある。



時間のムダだった。



ただそれだけ。



幸い、あたしのことを気に入ってくれる人もいなくはなかったから



あたしは住吉が好きだけど、それでもいいなら



という条件で何人かの人とは付き合っていた。



住吉のことをいくら7年好きでいても、住吉はあたしのことをそういう風には見れないと言った。



あたしは住吉を好きだったけど、住吉はあたしを大切にはしてくれない。



どこかでそう思っていたからこそ他の人を好きになる努力をしてきたが


これで本当に住吉しか見れてなかったら、えらく大変なことになっていたに違いない。







「牧山ぁ。 コレ、生徒学習課に持っていきたいんだけど」



「行けば」



「行けばじゃないだろー! 一緒に来てよ、俺もちきれないし。 頼むよ~牧山しかいないの!」



バカみたい、だと思うだろう。


第三者から見たら。



あたしは住吉に頼まれちゃえば断れないし


いくら「他人を好きになる努力」をして、付き合ってみたって


結局は好きになったことはない。



ずっと、住吉が好きなままだ。



それを早く終わらせたくても、目が無意識に追っている。



耳が無意識に声を拾っている。



あーあ。


きっと、ダメンズにひっかかる女なんだ、あたしって。









「こんなん持ってってとか、完全にオニだよな~マッキー(数学教師)」


で、結局来ちゃってるし、あたし。



「ねェ。 どうなの最近、伊久さんと」


「え゛」



伊久さんとはあたしたちの1つ先輩で、住吉が入学したときから好きだった相手だ。



付き合いそうで付き合わなかったり、ケンカしたかと思えば仲直りしたり。



美術部で大学の中でも有名な彼女と住吉のことは、大学中で噂の的だ。



「いやあ、伊久ちゃんの夢を応援してあげたいし」



あたしの方を見てニッコリ笑う。


いやいや、答えになってないし。



何でこいつはこんなに草食なんだろう。


草食っていうか、もう、草食男子にも喰われるただの草にしか見えない。








「伊久さん、もう就活じゃん。 全然会えなくなるじゃん」


ああ。


こうやって、2人の仲を心配してる素振りを見せて、2人の間柄が気になるの。


結ばれたら嫌なのにね。


バカみたいだね。



「ていうか」


住吉がイキナリ立ち止まってあたしの方を振り返る。




「別に、付き合ってたわけでもねーしさ、俺らって」



あ。


やられた。



これ以上入ってくんな、って。


お前には関係ない、って。



一線ひかれた。



こんちきしょー。


住吉は、闇を抱えてるから


それを、他人と共有しちゃいけないもんだと思ってるから



今あたしとこんなに話せるようになったのも、7年かけたあたしの賜物なのに。








どさっと荷物を置くと、住吉は足早に去っていった。



ばか、寒くて肩震えてんじゃん。 もっとあったかいの着込めよ


住吉の後ろ姿に、あたしはそうつぶやく。




帰り道にある美術部の部室が空いていたので、さりげなく覗いてみると


デッサンをしていた伊久さんと目が合ってしまった。



「あ、牧山ちゃん」


「あ‥‥ども」



やべ。


気まず‥‥



「どうしたの? すーちゃんなら今日は来てないけど‥」



「ああ‥ハイ」



知ってます。


今さっきまで一緒いたんで。



「いや‥伊久さんもうすぐ‥就職ですね~‥なんつって」


混乱したあたしは適当に口走る。



「そんなこと?」


あー、この笑顔がイヤだ。







伊久さんは少し考えながら首を傾げる。



「んー、まだすーちゃんにも言ってないんだけどね、実はあたし、大学やめて、結婚しちゃおうかなって、思ってて」



「え」


光に反射した長い髪を耳にかけながら俯く。



「いや別に、内緒にしてたわけじゃないんだけどね、でもまだ、決定事項でもないから、すーちゃんには言わないでね」



「はあ」



しっかし美人だな。


髪が、唇が、まつげが、指先が。



あたしには全てが羨ましい。



住吉を瞬時に虜にした、その全てが。



「‥‥どうかした? ‥驚かせちゃった?」



止まっていたあたしの目の前で、伊久さんが大きく手を振る。



「あ‥‥いや、‥お相手は、どんな方なんですか?」



ふふっと笑う声に、空気が揺れる。



「画家なの。 一緒に、ヨーロッパで暮らそう、って、言われたの」