「だけど放せなか った」 魚の鱗のように、 涙はきらきら流さ れていく。 「なんで」 無神経に聞いてみ る。 「なんででしょう な。時おり考えて みるのですが、わ かりません。好き なら、放してやる べきでしたのに」 緩やかにまぶたを あけ、顎を引く。 「昔はよく、その 時のことを夢に見 ました。苦しい夢 でした」 皿から湧いた桜の 花をつかんで、ば らまき、寂しそう そうに微笑んだ。