「わしはクチバシ

 ですからの、紅は

 塗れんのです。塗

 ったとて可愛らし

 くはなりません」

 あまりにも熱心に

 見つめるので唇を

 採られそうな気が

して、あとずさる。

 「人間の唇は愛ら

 しい物のひとつと

 思われますな。花

 の様であります。

 わし、むかし集め

 た事があるのです

 よ」

 どこから湧いて出

 るのか、桜の花弁

 が積もった皿に触

 れながら、こくこ

 くする。