「あげる」 「や、いやいや」 釣ザオを振り回し て河童は遠慮する。 「わしはですなぁ 、男ですぞ。紅な ぞいりませんわい」 「そぉう?」 「左様。わしは唇 に憧れておるだけ ですじゃ」 ごっふぉんと、じ じ臭い咳払いをし て、黒いタピオカ のような瞳をぐっ と唇に近づけてく る。きゅうりの匂 いが鼻先に香る。 河童の体臭だ。し ゃりしゃりと葉を 鳴らし、風が駆け ていく。