偽名だと?失礼な。
「偽名なわけないでしょー。偽名な訳が!」
もう、怒っちゃうよ?そりゃあ、決めた理由は雪が降ってたから雪でいいや~と軽いもんだったが。
「…てめぇ、今さっき自分で考えたって言ってただろーが!つーことは偽名に決まってだろ?」
「決まってない決まってない。ほら、あれだ。新たな人生を歩むために過去の名前を捨てただけだ。ついでに3年前だ。」
「んなもん言いわけにならねぇーんだよ!だからさっさと本名教えやがれ。」
ギャアギャアと土方と言い合っていたが、ピタリとそれが止まる。
…本名、ねぇ。
あの時からそんなもんは捨てた筈だ。復讐する為に。それが今日する筈だったのだ。いや、した。
だが、後一歩のところで及ばなかった。逃げられたんだ。
俺が殺そうとしているのをあいつにばれてしまい、殺すのも今となっては難しくなっているだろう。…まぁ、俺も結構な深手だったから死んだと思われてるかもな。近藤さんに見つけてもらえなかったらマジで危ない状況だったしな。
向こうでは、昔の名前を呼ばれていたから3年前自分で決めた「雪」の名を知らないから、俺だと思いもしないだろう。
「本名……そんなの捨てたね。今は「雪」だ。」
「捨てた?……なんで捨てた。」
ちょっ、そこまで問い詰めて来るか土方。
「…決まってるだろ?今日、この日の為だよ。まぁ、失敗したが。」
復讐を誓った日、自ら本名を捨てた。その時に雪が降っていたから、名前を「せつ」にした。
「ゆき」でもよかったが、その時の気分が切なかったので「せつ」。
単純だが、それでも3年前から大事にこの名前を守って来た。
味方には、この名を。
敵のあいつには過去の名を。
そして、ついにあいつを殺そうとしたが失敗した。
「いい加減にしねぇと、斬るぞ…――。」
「まぁ、いいじゃないですか。怪しい行動をしたら斬ればいいのだし。」
土方の言葉を隊長が遮る。その時も相変わらず笑顔。