次の日―。
私は自分の席で携帯をいじっていた。
今流行りの育成ゲーム。柴穂が薦めてくれた。
最初は乗り気じゃなかったけど、これが意外と面白い。
柴穂と赤外線でアイテム交換をしたり、散歩をしたり。
柴穂はこの前止めちゃったらしいけど、私はずっと続けてる。
柴穂と一緒じゃないからつまらないけど、時々代わりにやってくれるし。
と言っても、正直今はつまらない。だって、ただの暇潰しだし。
いつも騒がしく話しかけてくる柴穂が、今日は私の側へ来ない。
昨日だってそうだ。
いつもは柴穂が話し出してくれるから会話が続いてたのに、あの時、トイレで柴穂は黙り込んでしまった。
こんな事は昨日今日始まったのではない。
ちょうど一週間程前だろう。会話が続かず沈黙が増えたのは。
 今柴穂は、自分の席でずっと机を見詰めている。
しかし、こちらを気にしているのか、柴穂の方を見ると時々目が合う。
でもすぐに反らされてしまう。

 キーンコーンカーンコーン―。
時間はあっという間に過ぎ、ホームルーム開始のチャイムが鳴る。
ガラッ。
「ハイハイ、皆席着けー。」
担任のザッキーが教室に入ってくる。
すると、ザッキーの放った言葉とは反対に、柴穂が席を立ちザッキーの元へ向かう。
「おう、赤沢。」
ザッキーはそっと教卓に柴穂を誘導する。
「皆よーく聞けー!今日、赤沢はこの南山中学校から違う学校へ転校します!!」
…。
教室が静まり返る。
皆お互い顔を合わせることもなく、ただ静かに驚きの表情を浮かべ柴穂を見詰めている。

私は、柴穂を見ることができなかった。
ただ、机を見詰めた。
机の落書きが、滲んで見えなくなり、膝の上で握りしめた手の上に冷たいものが落ちてきても。
顔を上げることも、表情を隠すようにさらに俯くことも何も出来ない。
「えー、今日はこの後赤沢は家へ帰って東京へ向かう。だから皆と授業は受けることが出来ない。その代わり、赤沢から皆に手紙がある。」
そう言うとザッキーは教室の前の自分の席に座る。
パチパチパチ…。
それと同時に教室に拍手が広がる。
「三年二組の皆へ。」
柴穂は手紙を読み上げていく。