その後は、シオンが話を続けてくれた。

俺は少し後ろに下がって、シオンと店員のやり取りを、ぼ〜っと見ていた。

(俺、何しにこんなところにきたんだ…?)

ただ、霧野さんのショパンが聴きたかっただけなのに。

これじゃあ、前よりも、もっと気持ちが悪循環だ。

後ろ向きな気持ちで、ぼんやりする。

「ひさぎ?」

急に名前を呼ばれて、びくっとする。

「あ、わりぃ…。」

どうやら話が付いたらしい。

シオンは大橋ピアノの購入者の住所と名前を聞き出してくれた。

個人情報だから、かなり渋っていたみたいだが、どうやって聞き出したのだろう。

倉庫を後にして、近くの川の土手に座って、缶コーヒーを飲みながら、聞いてみた。

「購入した人に、お店の人から連絡してもらっただけ。『そちらの大橋ピアノについて聞きたい事がある人がいるから、連絡先教えても良いですか?』って。」

言われてみれば、なるほど。

少し関心して、そんなことにすら気が回らなかった自分に腹が立った。

そして帰国前と、何ら変わってない自分に、嫌気がさした。

川の流れをじって見ている俺に、シオンが言った。

「変な顔。」