「…は?」

俺は思わず脱力した。

「すぐに売れてしまったんですよ。古くて、よくわからないメーカーだったので、破格の値段でネットに出したら、すぐに売れたんです。残念でしたね。」

その台詞を言った若い店員に、キレた。

「あんた、ピアノを扱う専門だろ!?大橋ピアノを引き取った時点で、もっとそのピアノについて勉強しろよ!」

いきなり激昂した俺に、その店員は驚き、後ずさった。

たまらなく腹が立ったのだ。

仮にも、ピアノを扱う人間が、大橋ピアノを知らない、知る努力もしなかったこと。

そして価値もわからず、安価に扱ったこと。

霧野さんの思いがつまっているのに。

あんなに優しい音がするのに。

俺がさらに口を開きかけた時だった。

「ひさぎ。」

やわらかく腕を後ろから引かれる。

はっとして振り返る。

「大丈夫。ひさぎ、大丈夫だよ。また探しに行こう。」

シオンの言葉に、苦くて熱い塊が冷えていく。

何熱くなってんだ、俺。

らしくなさすぎだ。

向き直って、頭をさげた。

「すみません…でした…。」

若い店員は、怒鳴った俺に少し不愉快な視線をむけたが、何も言わなかった。