その姿はまるで奇跡。

スポットライトを浴びて、栗毛色のさらりとした髪は、彼の瞳の青をいっそう引き立てた。

観客の割れんばかりの拍手は、耳にひびいたが、心地の良いものだった。

シオンは舞台真ん中の、グランドピアノの前まで来ると、深々と頭を下げた。

それだけで、拍手がわきあがる。

本当に音楽の神に愛されているかの様だ。

シオンは、頭をあげると、俺のいる舞台袖を見て、微笑んだ。

大丈夫だよと言うように。

そしてイスに座ると。胸のポケットから、大事に大事に小さな写真立てを二つ取り出した。

観客からは、何が写っているか分からないだろう。

俺は知っている。

ジーンさんが持っていた若かりし日の霧野さんの写真。

もうひとつは、霧野さんがいつもピアノの上に飾っていた、若かりし日のジーンさんの写真。

二人の思い出を乗せて、シオンはショパンを奏でようとしているのだ。

そしてその奇跡の旋律が始まった。