「ひさぎは僕の命の恩人。」

そう言われて、俺は焦る。

「よせよ…。俺は何も、してないよ。シオンが倒れた時だって、何も出来なかった。」

エレノアさんはまた、うふふと笑って、付け足した。

「ひさぎくん、シオンにとっての命は、ピアノの事なの。あなたはシオンのピアノを助けてくれたの。」

俺は、人に何か影響を与えることができるような人間じゃない。

そう思ってた。

俺の心が、誰かの心に響くなんて、一生ないと思ってた。

でも、ちゃんとシオンは受け取ってくれたのだ。

こんな、ささくれだった俺の本当の姿を。

「いえ、救われたのは、俺の方ですから。」

今度ははっきりと俺も答えた。

エレノアさんは、優しく笑って、ありがとうと言った。