「夏のリサイタルは、やるのか?」

俺はシオンに聞いて。

はっきりと明確に意志を瞳に込めて、頷いた。

「たぶん、最初で最後になるから。手術に成功しても、大きなリサイタルはもう無理だからね。」

それに、とシオンは言う。

「僕は、リサイタルしたくてピアノを弾いている訳じゃない。誰かの為に弾ければ良いんだ。」

その言葉に、あの日の霧野さんと重なる。

「僕、ずっとおばあちゃんが喜ぶから、おばあちゃんの為に弾いてきたよ。」

懐かしそうに目を細める。

「今回はおじいちゃんに聴いて欲しかったんだ。でもその目的はなくなってしまった。」

「じゃあ…。」

「うん。まわりのみんなも反対してたし、リサイタル中止にしても良いかな、なんて思ってた。さっきまでは。」

そして俺を見た。

「僕、ひさぎに聴いて欲しい。おじいちゃんの音を知っているひさぎに。」