「今年に入ってすぐのリサイタル、かなり無理して、お医者さん付きっきりで開催したんだ。一曲だけの約束で。」

雑誌に載っていたリサイタルのことだろう。

「その時の事、忘れない。初めての舞台。」

目を瞑り、シオンは呟く。

「もう一度、命を削ることになっても、リサイタルで弾きたいと思った。だから夏にリサイタル日本でしようと思ったんだ。亡くなったおばあちゃんの為に。」

両親もお医者さんも、大反対だったと笑って言う。

当たり前だろう!

「おじいちゃんに逢って、おばあちゃんの最後の言葉伝えて、日本でピアノを弾けたら、死んでも良いかなぁ〜って。」

「冗談じゃない!」

俺が叫ぶと、シオンはまた笑う。

「僕の両親もそう言った。」

だから、リサイタルはオーケストラではなくソロで、短い曲を弾くことで、折り合いがついたと言った。