「あと何回の発作で、この心臓が止まるか、わかんないんだ。」

シオンは初めて俺から目を逸らした。

この青い瞳が、永遠に閉じるのか?

「その…手術とか…できないのか?ほら、人工心臓移植とか、あるだ…ろ…?」

「うん。お医者さんは、そうした方が良いって。」

「だったらっ!」

「弾けなくなるかもしれないんだ。」

今度は、真っ直ぐ俺を見て言った。

「手術が成功する確率は50%。成功しても、後遺症で手足に何らかの障害がでる確率が60%。」

俺はシオンを見つめるしか出来なかった。

「ピアノが、弾けなくなるかもしれないんだ。」

もう一度そう言った。

お互いの時間が、止まったかのような錯覚。

ピアノが弾けない。

その現実がどんなものか、ピアノ弾きの俺には簡単に想像できた。


いや、きっと俺には想像できない程の恐怖感を、シオンはずっと抱いて来たのだろう。

それを感じさせない笑顔を作れるほどに。

長い時間を経て。