「10歳の時から、心臓がね、萎縮しはじめたんだ。15歳までもつかなぁって言われてた。」

まるで昔話をするように、ゆっくりと話す。

「心臓に負担のないように、静かに暮してきたよ。ピアノを弾くことだけが唯一の楽しみになった。」

それも、長くは弾けなかったり、あまり感情移入をしないようにとか、医師には色々注文を付けられたと言う。

「それでも、自分にブレーキかけられない事、あるでしょ?」

笑う顔が、かえって痛い。

「その…直す方法とか、薬とか…あるんだろ?」

うん、と頷く。

「今回みたいに、発作が出た時の薬は、あるよ。」

パスポートに挟んであった、診断書に書いてあった処方箋のことだろう。

「でもね、萎縮にも限度があるんだ。結構、もう限界らしい。」

笑いながらも、細い白い指が、ベットのシーツを握り締めるのを、見てしまった。