「でも、シオン。何でピアノ弾かなかったんだ?ピアノ屋でも、旅館でも、弾けたのに。」

俺は特に何というわけでもなく聞いた。

シオンは少し笑って言った。

「弾かなかったんじゃなくて、弾けないんだ。」

弾けないって…?

どういう意味だ…?

俺の戸惑いに気付き、シオンは言う。

「弾くと、こういうことになっちゃう。」

そう言ってベットをぱふぱふたたく。
「どう…いうこと…だ…?」

嫌な予感がした。

聞いてはいけない。

聞いたら切なくなる。

そんな予感。

はずれてほしい。

「僕の心臓ね、ちょっと不良品なんだ。あんな風に感情が高ぶっちゃうと、心臓が萎縮していくの。」

言葉がでなかった。

「分かってるのに、思わず弾かずにはいられなかったんだ。ばかでしょ?」

うふふと笑う。

俺は、シオンの気持ちを思うと、たまらなかった。

「馬鹿なんかじゃ…ねぇよ…。」

言葉を必死でさがしたけれど、それしか言えなかった。