俺は、はっとして、自分の鞄の中を探った。

日本に着いて、真っ先に買って読んだ音楽雑誌を掴む。

焦る気持ちを抑えながら、ぱらぱらとページをめくり、あるページに釘付けになった。

(…これ…、シオンだったのか…!)

見開きで特集されていた、『若き天才ピアニスト』は、シオン・ギルフォードと書かれていた。

ピアノの前に立ち、タキシードを着て、後ろにさらりと流された栗毛色の髪。

その写真は、まるで別人の様に大人の顔をして、微笑んでいる。

何で気付かなかったのだろう。

あまりにも雰囲気が違うからか?

いや、俺が何にも関心を持てないでいたからだ。

そんなことに後悔しながら、処置室の前の長椅子に座り込む。

そして、その雑誌の記事を、ゆっくり読み直し始めた。

そこには、俺の知らない、シオンのすべてが書かれていた。

それが、とても切なかった。

悔しかった。