シオンの旋律に、霧野さんの面影を見つけた。

似ているのだ。

また、霧野さんのピアノを聴けた気がした。

優しい優しい、あたたかいショパン。

『cafe ♪』にいるかのような、心地よい空間。

シオンは少し幸せそうな顔で、ピアノを弾き続けた。

人のピアノを聴いて、こんな風に心が震えたのは、霧野さんとシオンだけだ。

わずか10分ほどの曲だった。

俺は1音も聴き漏らしたくないと、耳を澄ませて、とにかく聴き入った。

最後の音を大事そうに弾くと、シオンは黙って俺を見た。

俺もただ見るしか出来なかった。


「黙ってて、ごめん。」

先に沈黙を破ったのはシオンだった。

「…ピアノ…弾けたんだな。」

俺の返事に、ふふっと笑った。

その笑顔はいつもと変わらなかった。

ただ一つ、少し眉を寄せた以外は。