「そのかわり、あなたが日本に戻るまで、私が預かることにさせてくださらない?」

藤堂さんは、そう提案した。

ありがたい提案だった。

「あなたに弾いてもらえない間、放っておくのは、可哀想だもの。」

頷いて、そうしてもらうことにした。

「二年後には日本に戻ってきます。その時まで、よろしくお願いします。」

「はい。任されました。」

藤堂さんは笑った。

俺も笑った。

朝比奈さんも頷いた。

怒濤のような出来ごとに、少し興奮していた。

そしてかなり幸福を感じていた。

調律が終わっても、じっとピアノのそばを離れないシオンも、笑ってくれている。

そう思い込んでいた俺は、シオンが動いたことに気付かなかった。

シオンが、どんな顔でいたかなんて、まったく気付いてやれなかった。

そして嵐は突然やってきた。