藤堂さんは、俺とシオンをソファに手招きした。

「若い人は、コーヒーの方がお好きなんでしょうけど、ごめんなさいね、紅茶しかないの。」

そう言うと、ポットからコポコポと紅茶をカップに注いでくれた。

「いえ、紅茶、大好きなんです。」

俺が答えると、あら良かったわ、と彼女は嬉しそうに笑った。

「僕も、出身はイギリスの田舎なので、紅茶大好きです。」

シオンが言う。

初めて知った。

イギリス出身なのか。

こんな風に、一緒に旅はしているものの、知らない事ばかりだ。

不思議なものだな、と思う。

前は人のことなんて、知りたいとも思わなかった。

自分のことも、知って欲しいと思ったこともなかった。

でも、今、俺はシオンの事を、何故か知りたいと思っているみたいだ。

そして俺の事を、俺のピアノをきいて欲しいと思っている。

これが、友達…なんだろうか。

案外悪いもんじゃないな。

そう思った。