弾き終えても、しばらくは動けなかった。

なんだろう。

味わった事のない、幸福感。

求め続けたものが手に入った達成感か?

いや違う。

何なんだろう。

自分でも、わからない。

わからずシオンを振り返る。

斜め後ろに立っていたシオンは、ふわりと笑って言った。

「良い顔、してるよ。」

少しだけ俺は笑って、今ここにシオンがいてくれて良かったと、心の底から思った。

「もっと弾いて。ショパン。」

シオンのリクエストに答え、それから立て続けに何曲か弾いた。

こんなにショパンばかり弾いたのは、生まれて初めてだ。

腕がちぎれるかと思うほど、弾いた。

ひとしきり弾くと、ふわりと懐かしい香りがした。

(あれ…。紅茶…?)

また軽いデジャヴ?

ふと目をやると、ソファテーブルに紅茶とスコーンが置いてあった。

「そろそろお茶にしましょうか。」