(あれ、いい香り…。)

ふと五線譜から視線をずらすと、紅茶がなみなみと入ったカップが置かれていた。

そのままカウンターに目を向けると、彼は視線だけでうながしてきた。

いつもそうだが、写譜をしていると、なかなか頭がきりかえれず、現実世界に反応できない。

どう反応してよいかと、だまっていると、

「きっと気に入ると思いますよ。サービスです。」


ほっとする声で言った。

不思議な人だ。

「いただきます…。」

本日2杯目の紅茶。

さっき飲んだのとは違う紅茶だけれど、とても美味しかった。

「ありがとうございます。美味しい…。」

ほかっとあったかくなる紅茶だ。

体が?それとも心が?

珍しく気持ちのいらいらも少しなくなっていた。