みどりの言葉の後、家の中から音が消えた。

時計の秒針の音も、どこかで止まってしまったかのように。

2人は動かず、一言もしゃべらなかった。


「…違うだろ。お前は…みどりはそんな事、想う奴じゃない。」

静寂を壊したのは、淳だった。

「いつも、無口なお前が、こんなにしゃべるのは、お前が慌てた時か辛いのを誤魔化そうとする時だ。」


怒りの含まれた淳の真剣な声と、思いもよらなかった淳の言葉に、みどりは言い返せなくなってしまった。

淳は大きくため息を吐き、手を伸ばしてみどりの長い黒髪を掬った。

「どうした、みどり。何があった?いつもは訊かないが離婚話まで出す程のこと、訊かない訳にはいかないからな。」


淳の優しい声音に、みどりはうつ向き、口を開いた。

「……言いたくない。私の汚い部分。」

みどりは自分が、世間で言う嫉妬をしたこと、それが汚い部分であることをよくわかっていた。

「いい。だいたい俺は知らなすぎるんだ。お前のことを、夫として。だから、今日は話してほしい。」

みどりは、気づかぬうちに傍に来ていた淳に抱き締められ、驚き、心の底から安心した。


みどりは、ゆっくりと、自分で確かめながら今日見たことを話し始めた。