「…俺の…為?」
「……あなたは、私といても幸せにはなれないわ。私も、あなたといても幸せになれない。」
「俺は、幸せだ。今、とても幸せだ。」
言い切る淳を一瞬見たみどりは、心の中で怯んだ。
真っ直ぐな、偽りの無い瞳。
みどりは無表情のまま、首を振った。
「何がだ…。何が不満?俺のどこが足りない?」
「全てよ。」
みどりは初めて、淳に嘘を言った。
真顔のみどりを見て、淳は言葉を無くした。
「あなたの全てが、私に合わない。気にくわない。薄々わかっていたでしょう?
私があなたに愛の言葉を言わないのも、あなたの名前を呼ばないのも、子供が授からないのも。
全ては、あなたが嫌だったからよ。」
無表情のまま、みどりは迷いもなく言った。
心の中で、みどりは泣いていた。
愛する人の為。そうわかっていても、どうしても胸が引き千切られるような痛み、苦しみが自分を襲い、自然と涙が流れる。
しかしそれは、みどりの身体には表れない。
みどりは、幼い頃から、感情を表さなかった。厳しい両親から、勝ち組になって世の中で生きる為に、そういう教育を受けたからだ。
両親の厳しい教育に耐え抜いた子供は、無表情で無愛想で無口な大人へと成長した。