『はい。』
何度かのコール音の後、久々に聞くお母さんの声がした。

―もしもし、お母さん?

と言いたかった…。

忘れてた。私、話せない。
声が出ない。
そうか…
声が出なかったら、電話も出来ないんだ…

どうしようかな…。

『もしもし?あの…どなた?』

どうしよう!?本当にどうしよう!?

このままでは、電話を切られてしまう。

私はどうすれば良いのかわからなくて、ただ焦っていた。



『………日向?』

お母さんは、優しく、そう言った…



……さすが。
「お母さん」って凄いなぁ…
心から尊敬します。

私は心の中でそう思いながら、無意識に口を動かしていた。


「お母さん……?」

出たのは今までに出した事も無いような、酷いガラガラ声。

それでも奇跡的に出せたのは、相手が「お母さん」だからだろうな…

『あなた、今どこで何やってんのよ!!いきなり歌手辞めちゃって、あなたにとっての歌ってそんなもんだったの!?』
「お母さん…聞いて?」
『何を聞けと言うの!?家を出てから1度も連絡しないで…娘の姿を見れるのがテレビやポスターだけなんて…』

…泣いてる?お母さん、泣いてるの?

なぜか私まで泣けてきた…
けれど、これだけは、言っておかなければならない事だけは、伝えることにした。