「そう言えば、ご両親に連絡はしましたか?」
手術前に、時沢先生から最終注意をうけていた時、ふと時沢先生が言った言葉にハッとした。

両親に連絡するのをすっかり忘れていたから。

私の両親は、私が大学に行かずに歌手になることを許さなかった。
反対する両親は「どうしても歌手になるなら、家を出ていけ!!」と怒鳴った。だから私は最低限の荷物とお金を持って、家を出た。
今思うと、両親のあの言葉も私に諦めさせようとした、咄嗟の言葉だったのかもしれないと思う。

けれど、まだ子供だった私は本気にして、そして今まで1度も連絡していない。
両親に連絡先も教えてないから、きっと電話すると怒られるだろう。
いや、話も聞いてくれないだろうか?それとも、何も思わず、「あ、そう。」と終わるだろうか。


とりあえず、連絡しよう。

急いで財布を持ち、公衆電話の許へ行った。
久々に押す実家の電話番号。

普通なら緊張とかするんだろうけど、私は何故か楽しみだった。