コンコンッとノックの音が聞こえ、私が返事を(返せないのだが…)返す前にドアが開かれた。
入って来たのは、私の主治医だった。

「色秦さん。お体の具合はどうですか?」
「お父さん!!」

皐月ちゃんと主治医の声が重なった。

お父さん…?

「あぁ、皐月。ここに居たのか。お母さんが探していたぞ?」

主治医は皐月ちゃんの頭を優しく撫でながら言った。
私は、訳がわからなくてベッドに寝ながら首をひねった。

あぁ、そういえばこの主治医、時沢要(トキサワ カナメ)っていうんだっけ。
皐月ちゃんも[時沢]だもんな。

呑気にそんな事を考えていると、時沢先生が皐月ちゃんを病室から出して、近寄って来た。

「喉の方は、まだ痛みますか?先程倒れたの、わかりますか?」

うっすらとした記憶の中でも、激しい痛みは覚えていた。
あの時よりは大分痛みはひいたが、違和感が感じられた。
あと、声が出ない事をジェスチャーで伝えると、時沢先生は白衣のポケットから手帳とシャーペンを出して「これに書いてください」と差し出してきた。

――違和感があります

汚い字でそれだけ書く。
時沢先生は確認し、また質問してきて私はまた答えを手帳に書いた。
それを何度か繰り返すと、時沢先生は「わかりました。今日はゆっくり休んでください」と微笑んで、病室を出ていった。