この時にはもう、私は諦めていた。
「そうですか…」
「…なんで、ここに?体調が悪いからですか?」
「もう、あの世界からは離れた身です。もう、あの時の話は…」
「じゃあ色秦さん、あなたはどうしてここに入院しているんですか?」

しつこい人…

心の中で伊月さんを睨む。
受けたショックがやっと和らいできたのに、説明することで、またショックを思い出してしまうのに…

「…話したく…ありません。」
「…命に、関わるんですか?」

私は黙って首を振った。
心配ありません、という目を伊月さんに向けたが、わかってくれただろうか…

「……朝早くに、すみませんでした。もう行きます。お邪魔しました。」

一気にそう言って部屋を出ていった。

一瞬、一瞬だけ、伊月さんの目が悲しみを帯びていたのは、きっと気のせいだろう…