『お前とこんな関係になるって思ってなかったなぁ。オレは本当はお前みたいな女は好みじゃねぇんだ。もっと派手で大人な女のほうがオレには合ってんだよ。・・美久みたいな三十路のくせに童顔でオコチャマな女と一緒にいて和むなんてなぁ・・』

 そうやってタバコを吸う卓ちゃんは、四つも年下のくせに美久よりずっと大人に見える。
 ひとつ文句を言うなら、『オコチャマ』じゃなくて、若々しくて可愛いって言ってくれるほうが嬉しいんだけどなぁ。まぁいいや口が悪いのが卓ちゃんだから。それに美久だって好みじゃないんだからね!

・・だから好みじゃないもの同士、逆に合ってるってことじゃない?
 美久たちは心のずっと奥で繋がってるんだよ、きっと・・。

「それでね、卓ちゃんがね、店に入ってきたときね」
「うんうん、あ! ちょっと待って。すいませぇん! これ、同じもの追加で!」
 もう三杯目の焼酎だ。ほんとにお酒強い。弘子はお酒ばっかり飲んで、あんまり真剣に美久の話を聞いてくれない。美久はちょっとそれが不満で物足りない。美久と卓ちゃんがどんなふうに恋に落ちていったか、聞いてくれるのは弘子だけなのに・・。

 卓ちゃんが初めてうちのショップに入ってきたとき、なんだかよくわかんないロープをグルグル巻きにしたものを左肩にかけて、大きな道具箱を右手に持ってた。
「茶髪ピアス君だぁ」ってショップの女の子たちとこそこそしゃべった。思えばあの時から運命を感じてたのかもしれない。

 新型の携帯に合わせた装飾が出来上がった日、現場の人たちが「飲みに行こう」って、販売員の美久たちを誘ってくれた。他の販売の女の子たちは「現場の人ってガサツだし、めんどくさい」とか言っちゃって、ササっと帰っちゃったけど。結構冷たい子多いから。
 美久はその当時の彼氏とケンカしてムシャクシャしてたこともあるし、せっかく誘ってくれてるのに申し訳ないって気持ちもあって、飲み会に参加した。なんで彼とケンカしたかって言うと、同棲してる年上の彼が会社をリストラされちゃって、全然新しい就職も決まんないし、年上のくせに美久のヒモ化してきちゃって、ホントに頼りなくてムカつく! って・・とにかくもうモヤモヤしてたの。
 卓ちゃんはそんな美久の気持ちを延々と聞いてくれて、分かってくれたの。たまたま隣に座った女の子の愚痴をずっと聞くなんて、普通できないよ・・すっごくやさしいの、ホントは。