「卓ちゃんとこんなふうに恋に落ちるなんて思ってなかったんだぁ」
 美久はアルコールのせいで、しゃべり方がちょっとほんわかになってる。一緒に飲んでる弘子は、三杯目のジョッキもあっという間に空にして店員さんを呼ぶボタンを押している。
「あ、そ」
「そんな興味なさげに言わないでよぉ」
「はいはい。ごめんねぇ? こういう性格なの。あ、ロックで」
 卓ちゃんを通じて友達になった弘子は焼酎のロックを追加した。美久はお酒があんまり強くないから二杯目のビールを持て余してる。甘いお酒ばっかり飲んでたけど、卓ちゃんがビール好きだから美久もビールが飲めるようになった。でも二杯が限界。
「で、卓とはどこで知り合ったんだっけ?」
「適当に質問してるでしょぉ?」
「なによ。話したくないなら、聞かないわよ」
「ううん! 言う!」
 この冷たい弘子と卓ちゃんは飲み友達らしい。卓ちゃんの行きつけの居酒屋でよく一緒になって、仲良くなったんだって。最初はもしかして怪しい仲なのかなってちょっと疑っちゃったけど、弘子は完全に「友達」って感じ。弘子にはちゃんと彼氏がいるし、それにこうやって、女友達の少ない美久に「仲良くしろよ」って卓ちゃんが弘子を紹介してくれたんだしね。
心配いらないと思う。
「卓ちゃんと美久は同じ携帯ショップで働いてたんだよぉ」
「あぁ、そういえば卓の仕事って、電飾関係だっけ? 携帯ショップの電飾とかやってるってこと?」
「うん。美久は販売員だけどね。新型の携帯が出るときに店内の装飾を担当してたのが卓ちゃんだったのぉ。担当って言っても工事の現場の人だからたくさんいたんだけどね。卓ちゃん、その中でも茶髪にピアスで派手な迷彩柄のTシャツ着てて、一人で目立ってた。絶対遊んでるチャラ男にしか見えなかったよ」
「うんうん」と、弘子が頷きながら、焼酎をカラカラ言わせる。
「あんな遊び人なんか、ぜっったいヤダ! って思ってたのになぁ。・・でも卓ちゃんって、ホントはチガクない?」
「そう? ヤツは遊び人だと思うけどね」
 やっぱり。卓ちゃんは遊び人だって思われてると思ってた!
 でもそれは弘子が遊び人の彼しか見たことないから。
 美久だけは特別なぁの!
 卓ちゃんの美久に対する態度を弘子に見せてあげたい。美久に対する言葉を聞かせてあげたい。きっと他の女とは違うって分かる。誠実とまではいかないかもしれないけど、特別な気がする。だって彼はベッドの中でよくこう言ってるもん。