「ああ、榎本さん。おはようございます」
玄関扉を開けた先に思いもよらぬ爽やかな笑顔があり、私は咄嗟に玄関扉を閉めてしまった。
この笑顔を見るのは初めてでは無い。むしろ二度目なのだが、こちらが油断しきっているタイミングで足音もなくあんな笑顔とは不意打ち極まりない。あの笑顔が銃弾だったなら、私は今頃真っ赤に染まった胸を抑えながら玄関先で息絶えているところだ。
少しの間があり、遠慮がちなノック。
「ごめんね、驚かせた?」
そう問いかけるシノノメさんの声は微かに笑いで震えており、突然声もなく扉を閉めた私に対して怒っている、なんてことは微塵もなさそうだった。
けれど、しかし、これは絶対、変な子だと思われた。
冷静に考えてみたらドアコントそのものでしかない先程のリアクションを後悔しながら、わたしは今一度玄関扉を開けた。
白い雲がまばらに浮かぶ青空。それを背景に、楽しげに笑う彼がいる。
「…いえ。こちらこそ、すみません」
ああ、恥ずかしい。
頭を下げるフリをして、熱の灯る頬をマフラーで隠した。
シノノメさんは唇に一層濃い笑みを乗せ、いえいえ、と短く答える。
それから私の荷物をちらりと見遣り、軽く首をかしげて見せた。
「これからお仕事?」
「はい、まあ…」
お仕事、というかバイトなんだけども。別段訂正するようなことでもないので軽くうやむやにして、私もシノノメさんの手荷物をちらりと見遣った。
彼の手には大きな紙袋が握られており、中にはタッパーや可愛らしい小袋などが見える。中身は食糧だろうと容易く推測できた。
「大荷物、ですね」