アイドルに恋をした。【雑記帳兼ねる】

「今映ってるのは録画だし。史穂ちゃんホントに昔業界にいた人?」

「…なんで私が昔テレビでてたこと知ってるの!?」

「さて、なんででしょうか」

ミズキ君の話し方はなんだかバカにされてるみたいでイライラする。

「また叔父さんに聞いたんでしょ。…それよりなんで私の家の電話番号知ってるのよ? これも叔父さんから聞いたの?」

「史穂ちゃんこのあいだ生徒証落としただろ。それに番号書いてあった」

「へ!?」

なくした学生証、ミズキ君に拾われてたんだ…。

「バーコードついてるってことは、これで出席確認するんだろ?これないと困るんじゃない?」

「…もう困ってるわよ」


学生証一つないだけでこんなに学校生活が不便だとは思わなかったよ。
「返してほしいんですけど、学生証」

「じゃあ取りにきてよ。明日学校休み?」

「明日はあるよ学校。午前中。」

「へえ、めずらしい。」

「うちの学校は、私立だから土曜日にも授業があるの。」

「さっすがお金持ち校は違うねえ」

私はお金持ちだから入ったわけじゃないんだけどな。

「12時半には終わるよ。どこに取りに行けばいい?」

「これ落とした場所。2時半に裏の駐車場入り口で待ってる」

「わかった」

「もちろん一人で来るよね?オレ、囲まれるのキライだから」

「わかってるわよ!」

「じゃあ明日」
「史穂、今日もお昼食べてく?」

土曜日はだいたい真奈美とお昼ご飯を食べるのがいつものパターン。

だけど今日はお昼を一緒に食べてる余裕はない。

2時半にテレビ局に行く約束。
一度家に帰って制服着替えなくちゃいけないし。

「ゴメン、今日は早く帰んなきゃいけなくて」

「あら、めずらしい。」

「ほんとゴメンね」

「いいよ別に。じゃあ、駅前の本屋さんよってこうかな~」

私は駅で真奈美と別れて、急いで電車に乗り込んだ。

遅れたらすごい文句言いそうだもん。


2時20分。
何とか遅れずにテレビ局裏の駐車場出入口に到着できた。

今日の服装は、チュニックブラウスにスキニー。
学生証受け取ったらすぐに帰るつもりだから、思いっきりラフな格好。

裏の駐車場には、ガードマンさんが立っていて中には勝手に入れないようになっている。

子供のころ子供番組に出ていたときは、ここから中の駐車場まで普通に入っていけたけど、今の私はただの一般人で中には入っていけないから、ここで待つしかない。

生放送の音楽番組なんかがある日には、出待ちのファンの子たちが並んでたりするけど、今日はあまり出入りもないみたいだった。


人の出入りは少ないけど、人気アイドルのミズキ君が、一人ひょっこり現れたらやっぱり目立つんだろうなあ。

早く学生証受け取って帰ろう。

そう思っていたとき、

「あなた、水沢史穂さん?」

突然後ろから声をかけられてびっくりした。
駐車場の方ばっかり気にしてたから、全然気がつかなかったよ。

「はいっ、そうです!」
反射的に声がおっきくなった。

立っていたのは、かっちりしたパンツスーツを着たきれいなお姉さんだった。

「驚かせてごめんなさい。私、ミズキのマネージャーの櫻井です」

出された名刺の裏側には、担当しているタレントの名前が書いてあった。

ミズキくんの名前が一番上だ。

「はじめまして。水沢史穂です。あの、学生証をとりに…」

「ミズキから聞いてるわ。史穂ちゃんこれから時間ある?」

「え? まあ、予定は何もないですけど」

「よかった。さあ、こっちよ」

桜井さんに促されて、後についていく。

駐車場の入り口傍にワーゲンバスが止まっていた。

「さあ、史穂ちゃん。乗って」

「え? 私学生証取りにきただけなんですけど・・・」

「いいから、いいから。はいどうぞ」

開けられたドアの向こうに、帽子をかぶった男の子が座っていた。

「よっ」

あげられた顔は確かにミズキくんのものだった。

「・・・誰かと思った」

「はあ?」

「だって、服装が雑誌と違うんだもの」

今日のミズキくんの服装は、レイヤードのボーダーシャツにチノパンっていうラフな格好だった。

真奈美が持ってくる雑誌のミズキくんは、シャツにネクタイにジャケットっていうモード系のものばっかり身に着けている。

「ネクタイとジャケットは標準装備なのかと思ってた」








「櫻井さん~、オレって世間じゃそう思われてるみたいなんですけどいいんですか?」

「それでいいのよ。『ミズキ』はクールでカッコいいイメージで売ってるんだから。あなた自身が違う服装が好きでもね。」

「はいはい。わかりました櫻井さん」

「じゃあ、史穂ちゃんミズキのとなり座ってね」

「え?あの私・・・」

「いいから、乗れって。早く」

「はい…」

とりあえず、乗り込んで隣に腰掛けた。
「朔也、お待たせ。さあ行きましょう」

助手席に乗り込みながら、櫻井さんは運転席に座っている男の人に声をかけた。

朔也と呼ばれた運転手さんは、無言で頷くとエンジンをかけて車を発進させる。

「あの、いったいどこへ?」
「映画」
「え?」
「これから、映画見に行くから付き合って」

ぶっきらぼうに言ったミズキ君。

櫻井さんは、そんなミズキ君を見て笑っている。

「ゴメンね、史穂ちゃん。夜の仕事まで時間が空いたから、映画を見に行くことになってたの。その映画の監督さん、次の映画にミズキをって言ってくれてるからぜひとも見ないとと思っていて。
 でもミズキが今日人と合うからキャンセルしたいとか言い出したから、ちょっと問いただしたら女の子と会うって言うもんだから。
ミズキも普通の男の子なんだなあっ、ちょっとお手伝いしてあげようかな~なんて思って。
というわけで、今日はダブルデートということで、史穂ちゃん、付き合ってくださいな」

「よけーなこというなよ!」
ってミズキくんが叫んだけど、真っ赤な顔はちっとも怖くなかった。