香美は苦笑しながら、そう口にした。
「亜子もそろそろ一人で集中した方がいいでしょ?」
「そんなことないよ。誰が居ても私は――」
その時だった。
亜子の肩にドンと衝撃が来たのは。
少しだけふらついた亜子だが、すぐに体勢を整えて何が起きたのかと顔をあげる。
亜子のすぐ近くに、眼鏡をかけた見知らぬ男子生徒が立っていた。碌に亜子の方を見もせずに小さな声ですみませんと謝り何処かへ行ってしまった。
少しだけ痛む肩を押さえながらその男子生徒の背を見ていると、香美が呆れた口調で言った。
「自分がぶつかって来といてなにあの態度」
「…でも、謝ってくれたよ」
「あんな上っ面だけの謝罪なんて謝ったに入らないよ」
自分のことのように怒ってくれている香美に、嬉しく思いながら言いかけていた言葉をもう一度紡いだ。
「それで、私は誰が居ても勉強は出来るんだけど…」
「いいっていいって。ちゃんと集中した方が効率いいよ。わたしもいい加減亜子に頼ってられないし」