「あの先生さ、説教長すぎだよね」


靴を革靴に履き替えながら香美が呟いた。隣で同じように革靴に履き替えていた亜子は「え…」と声を漏らした。


「山口だよ山口。多分だけど、加賀見くんが何も言わなかったら、まだ説教続いてたよ」


履いた革靴の先を地面で叩いたあと、亜子に向き直りそう告げた。香美の言ったそれは亜子も理解出来た。実際そうだろうと思っていたし、亜子もあの説教にはうんざりしていた。


「わたしも勉強しなきゃいけないのになあ。あの時は加賀見くんに感謝したよ」

「勉強なら私が教えてあげるよ。今日も家に来る?」


テスト週間に入る前から、ほとんど毎日のように香美は亜子の家に来ては勉強を教えてもらっていた。亜子の教え方は教師より上手いと、香美はそう思っている。実際に授業で教わるより理解出来るのだ。
けれど、香美は亜子の誘いに首を振った。縦ではなく横に。


「どうして…?」

「これ以上、亜子に頼りっぱなしになるわけにはいかないからね」