山口は腕時計を確認した。時間は16時を過ぎていた。それからわざとらしい溜め息をついたあと、片手で千洋と優一を払った。まるで犬を払うかのような扱いで。


「…席に戻れ。今日はこれくらいで勘弁してやる」


その言葉を待っていた。千洋と優一は顔を見合わせて、山口に気付かれないように口元に弧を描いた。
二人が席に着いたことを確認すると、山口は指で教卓をとんとんと叩いてみせた。


「いいか、今はテスト週間だ。遊ぶ為の時間じゃない。試験勉強する為の時間だ。寄り道しないでさっさと帰れ。特に仲山と加賀見はな。――白上、号令」

「えっ、…あ、はい。――起立」


柄にもなく早口で喋ったあと、山口は切り上げるように白上寛人(しらかみひろと)に声を掛けた。
寛人はこのクラス唯一の学級委員長だ。クラスからは名字や名前で呼ばれることは少なく、大体〝委員長〟と呼ばれる。

寛人は眼鏡を押し上げながら、言われた通りに号令をかけた。