「俺らじゃなくて、この長たらしい説教に付き合わされている生徒を、ですよ」


優一は至って真面目そうにそう言った。
多江はこの時、少し、いやかなり優一に感謝した。テスト週間に入っても碌に勉強をしない千洋や優一を馬鹿にはしているものの、このまま説教が続けば自分が試験勉強を出来なくなると思っていたからだ。

優一の言葉には流石に山口も怯んだ。そこに追い討ちをかけるかのように、優一は口を開いた。


「クラスの成績が下がったら、先生マズイんじゃないんですか?」


先ほどと変わらず無表情に言葉を発する優一。山口が風評を気にしているという事実は、クラスの生徒が一年の頃から知っていたことだ。それだけに優一は山口の扱いが上手い。


「俺らは別に帰らなくてもいいですよ。このままで困るのは、先生の方だと思いますから」


今まで無表情にしていた優一の顔が、悪どく笑ったような気がして、山口は一瞬、本当に一瞬だけ目を見開いた。普段はこんな丁寧な口調ではないくせに。