それに対していちいち咎めるのも面倒な山口だが、彼は自分の受け持ったクラスにはきちんと教育をするつもりでいる。と言うのも彼は風評を気にする人間で、自分のクラスの悪評が広まれば、それは自分の責任となる為である。


「髪を触るな、仲山。ポケットから手を出せ」


少しきつめの声色で言えば、千洋は渋々と云ったように両手をだらりと下げた。

次に山口は千洋の隣に立っている優一に目を向けた。さっきから、というか此処に立ってから一言も口を利いていない優一は、目線を山口の上へと向けていた。
その先に何があるのかを山口は知っている。


「まだ帰す気はないぞ。いくら時間を気にしても無駄だ、加賀見」


そう言えば、優一は漸く山口を見た。優一は本当に女性に見えてしまうときもあるほど、中性的な顔立ちをしている。少し癖のある黒髪を揺らしながら彼は首を傾げた。


「でも先生、いい加減帰らせて勉強させた方がいいんじゃないですか?」

「…どうせお前らは帰っても勉強しないだろうが」