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「ねえねえ、亜子はもうするつもり?」


午前中の授業を終えた昼休み。亜子と香美は教室で一緒に弁当を食べていた。亜子がお茶を飲もうとペットボトルに手を伸ばしたときだ、その質問が来たのは。
亜子は数回瞬きをしたあと、その質問の意味を考えて答えた。


「…試験勉強のこと?」

「当たり! で、もう今日からするの?」


どうしてかは分からないが、香美は笑みを絶えさずに質問を繰り返した。亜子はペットボトルを手に取って、一口お茶を飲んでからそれに答えた。


「まだ分からない…」

「分からないってどういうこと?」

「だって、試験範囲見たでしょ?」

「うん、見たよ」

「……狭かったでしょ?」

「え?」


亜子は香美から視線を逸らしながら小さく言った。
〝狭かった〟? そこで香美は、自分の親友が秀才であることを改めて理解したのだ。


「あー…亜子にとってはね。でも他のみんなにとってはこのテスト範囲、別に狭くないんだよ?」