英知はその返答に目を丸くし、そして悲しげにつぶやく。


「買い被りすぎだよ。
多分彩を困らせる…、だから今まで言えなかった」


「英知…?」


彩は困るかもしれない。
拒絶するかもしれない。
だけど何も言わないでいるより、ずっと良いはずだ。


意を決して口を開こうとしたとき、極度の緊張からか、英知は握り締めていたお守りを落としてしまった。
英知が慌ててそれを拾った瞬間、


「せっかく啓吾にもらったのに、落としたら効果なくなるかも…」


彩が発した言葉に英知は言葉を失った。


お守りを握る手の感覚が研ぎ澄まされていく。


―――彩がくれたのだとばかり思っていた。
いや、結果的にはそうに違いないけれど、啓吾が彩にあげたものだとは知らなかったし、知りたくもなかった。


「―――兄貴…?」


「そう、この前の弓道の試合で切れた啓吾の弦なの。
弦が切れたのに的に当たるって珍しいんだって」


彩はそのときの啓吾の勇姿を思い出し、微笑む。
その様子が英知の啓吾への嫉妬心をさらに煽った。