だけど、何度選択を迫られても、きっと彩は啓吾しか選べない。
だって彩の彼氏は啓吾なんだから。


「用事の相手は、…兄貴?」


英知の声は静かだった。


彩はその問いに頷くと、言い訳にならないことは分かっていたけれど、啓吾の模試が土曜日にあることを伝えた。


実際、英知はそんな理由に興味はなかった。
ただ重要なのは、彩が英知の試合の日に予定があって見に来られないことと、その相手が啓吾であるということだけ。


「残念…。
彩に応援してもらいたかったな」


素直な英知の言葉に、彩は赤面した自分に気付く。
その言葉が嬉しくてたまらなかったと知ったら、英知は驚くだろうか。


本当は英知の試合を見に行きたい。
そう伝えたところで英知を困らせるだけだから、彩は無理矢理その言葉を飲み込む。


そして、彩はふと思いついて鞄を探った。


「英知、これ―――」


以前啓吾にもらったお守りを鞄の底から探し出すと、英知に差し出して言った。