手を掴んだ手前、何も言わないでいるわけにもいかず、英知は言葉を探す。

「えっと…」


彩の手の柔らかさと温もりを感じ、英知は途端に抱きしめたい衝動に駆られる。


だけど、英知にはその資格はない。
彩は啓吾の彼女だ。
彩への気持ちを伝えもしないで、この手が自分のものになることはきっと永遠にない。


ふと、真希の言葉が英知の頭の中に甦る。


―――私は自分の気持ちに素直なだけだよ。
その言葉を聞いて、真希は強いと思った。
そして、彩を自分のものにしたいなら、その強さを自分も持たなきゃいけないんだと思った。


「英知…?」


手を掴んだまま何も言わない英知に視線を投げかけつつ、彩は自分に驚いていた。


どうしてこんなにも動悸がするんだろう。


啓吾といるときにも緊張はあるけれど、こんなに焦りを伴うことはない。


英知といるときだけ、彩は不安なくらいドキドキする。