40代くらいのタキシード姿の男は僕にゆっくり近づいてきた。


すると、男の手のひらが僕の顔を優しく包み込んだ。

(暖かい……)




冷たい海の中が急に暖かくなった。



それに、呼吸も続くようになった。



「っは!…はぁ……」


久々の呼吸で乱れる僕。




「ご無礼申し訳ありません。」



タキシード姿の男が話し掛けてきた。



「お久しぶりです。羅音くん。私です、サリア・パトリックですよ。」


久しぶり…?
誰何だこのおじさん。



「まぁ戸惑うのも当たり前ですよね。まぁ安全な私の家に行きましょうか。羅音くんが怪我をされてはこまりますから。」




……………。


さっぱり理解出来ない。だけど、僕を食べようなんて目をしてない。
このおじさんに付いていっても良さそうだ。

それにしても、どこから来るんだ、この安心感は。





「……さり…あ?…」




僕はサリアの名前を呼ぼうとした。でも、びっくりするくらい声が出なくて力が抜けていった。



「そんな可愛い顔をして、どうしたんです?」


一瞬鳥肌が立った。


「足が…動かない……」





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