カルテからは七十歳に手が届くころだが、老婆という言葉は似つかわしくない。

 気品に溢れ、物腰のやわらかさと人を慮る会話。

 彼女の笑顔に刻まれる皺さえも、美しい。
 
 こぼれる笑顔は、少女の可憐さをたたえていた。
 
なによりも、彼女と話すたびに、彼女のぬくもりに包み込まれるような、安堵感を感じる。

 人を心地よくさせてくれる彼女に、時折どちらが患者かわからないくらいに、医師と患者という枠を超えて話し込むことが多くなった。

 もっとも、私だって、多くの癌患者を看取ってきた。