「あなたは、世界で唯一の技術者になりたいの?それとも、腕のいい技術者たちとともに仕事がしたいの?」

 と雑談の途中で真顔で問いかけられて、

「まるで、禅問答ですね」

 私は、苦笑する。

その通りよとばかりに、彼女はにこりと笑顔ひとつほころばす。

「もっと、完璧になりたいんです。より完璧になって医療の現場で自信を持って働きたいんです。信頼されたいんです」

「人の手に、完璧はないけれど、完璧になろうとする気持ちは大切よね。そういう人たちが医療の現場に真摯に立ち向かえば、人はついてくるものじゃないかしら……」

「でも、悔しいんです。私は、私は……」

 私は高い理想を掲げながらも、彼女を救えない現実に胸が張り裂けそうになっていた。

「私のことは、いいのよ。いいの……」

 彼女がそう言いかけたときに、ノックがした。

 彼女のご家族だった。

 一度に狭い病室が賑やかになった。

「私は、これで失礼します」

 部屋を出ようとすると、ここにいてあげてください、私たちはすぐに帰り
ますからと、彼女の娘さんらしき人が言った。私は、頷いて窓辺に立った。

 桜の花が、満開だった。

 この部屋は、桜の巨木が手に届きそうな位置にある。

 桜の枝に手を伸ばそうとしたときに、

「それじゃあ、先に行ってるから」

「おばあちゃん、待ってるよ」

「わかったよ、タアくん、おかあさんの言うことをちゃんと聞くのよ」

 彼女が手を振ると、小さな男の子と、その母と夫とおぼしき三人はドアの向こうに消えていった。

「素敵なご家族ですね」

「ええ、そうでしょう。私の自慢なのよ。家族って、いいわね」

 彼女が笑顔で涙ぐんだ。