そんな俺にとっては屈辱的なエピソードも、漸く忘れかけた数日後。あの甘ったるい香水の匂いと共に、なんと結衣が俺の職場に突然現れたのだ。


 あの後結衣は反省し、俺の事を調べて謝罪に来たらしい。

 まあ、それはお嬢様としては殊勝な事だと思うが、一度俺の中に出来た結衣への印象は変わる事はなかった。つまり、高慢ちきでいけ好かない女。


 とは言え、相手が社長令嬢であれば、そう無碍にも出来ず、あっさりと俺は彼女を許した。これで結衣と俺を結ぶものは何もなくなった。そう思ったのだが……


 その後もちょくちょく、結衣は俺の職場に来るようになった。ご飯を食べに行こうとか、お茶を飲みに行こうとか言って。


 たちまち会社中の噂になり、それが遥の耳にでも入ったらどうしようかと、俺は気が気ではなかった。